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スパルタの王女

(エコー ナルキッソス1)

ゼウスは人間の女と交わるために、ヘラの注意をそらしたくなる時があります。そんな時はエコーというお喋りなニンフ(妖精)を用いていました。

エコー:「何を話せばよいのですか?」

ゼウス:「何でもいい。何も思い浮かばなかったら、とりあえずヘラが言ったことを繰り返すだけでも大丈夫だ。」

エコー:「それならお安い御用です。」

ヘラが「おはよう」と言えばエコーも「おはよう」と言い、ヘラが「夕飯の時間だ」と言えばエコーも「夕飯の時間だ」と言います。

ある日ヘラは真相に気付きました。エコーはゼウスの不倫のための時間稼ぎをしているのだ。激しい屈辱と嫉妬。復讐の刃の矛先はゼウスではなくエコーへ向かいました。

ヘラ:「この小娘が!そうやって永遠に他人の言葉を繰り返すがいい!」

ヘラの呪いによって、エコーは、普通に会話をする力を奪われ、相手が発した言葉の末尾を繰り返すことしかできなくなってしまいました。

その後、エコーは、森をさまよっていた時に、ナルキッソスという美青年をみつけました。話しかけたいと思いましたが、呪いのせいで言葉を発することができません。ナルキッソスが何か喋ればエコーも声は出せますが、その場合も末尾を繰り返すことしかできません。

ナルキッソス:「何だ、お前は。」

エコー:「何だ、お前は。」

ナルキッソス:「変なやつだな。あっちへ行け!」

エコー:「あっちへ行け!」

これでは進展するはずもありません。それどころかナルキッソスから煙たがられる一方です。エコーは日に日に弱っていきました。だんだんやつれて身が細くなり、最後には実体が無くなって音だけになってしまいました。その結果、姿は見えず、近くで鳴った音を繰り返すだけの存在となりました。

これがエコーです。

もちろん、エコーとは「こだま」「やまびこ」「反響」であり、物理現象です。しかし、物理学が発展する以前の古代の人々は、このようなストーリーを付けることで説明しました。樹木に住みついている姿の見えない妖精「こだま(漢字では「木霊」と書く)」の仕業だと考えました。

(エコーとナルキッソス 2

エコーは物理学ですが、ナルキッソスは心理学です。

エコーを冷たくはねのけたナルキッソスは、河の神とニンフの間にできた子どもでした。                                                                      

森の中でも評判の、サラブレッドの美青年。自分の美しさを強く意識し、それゆえに自己愛が肥大化し、他人に冷たい性格になりました。エコー以外のニンフも人間の女も冷たくあしらっていました。

何人もの女が言い寄ってきますが、ナルキッソスは相手にしません。

ある時、ナルキッソスに振られた少年は、ナルキッソスの家の前で自殺しました。そして死ぬ直前に処女神アルテミスに願いました。

「ナルキッソスに復讐してください」

アルテミスは承諾し、ナルキッソスに呪いをかけました。

ナルキッソスは、水を飲もうとして湖の前にしゃがみ水面に口を近づけました。

すると、湖の底の方から、誰かがこちらを向いていました。美しい青年でした。

彼はナルキッソスと同じ動きをしました。ナルキッソスが瞬きをすると彼も瞬きをし、ナルキッソスが手を振って呼びかけると彼もまた手を振って応えました。

ナルキッソスは、湖に映る青年に心を奪われました。しかしキスをしようとして水面に口をつけると、彼の像は揺らいで消えてしまいました。そしてナルキッソスは湖の水を飲むことができなくなりました。

もともと自己愛が強いナルキッソスでしたが、アルテミスの呪いによって、水面に映った自分に猛烈に恋をしてしまったのです。

もはや他人の声は全く届かなくなり、来る日も来る日も湖を眺めて暮らしました。水面をみつめ、水面に触れては像が揺らいで落胆する。これを狂ったように繰り返しました。

食べ物ものどを通らなくなり、日に日にやつれていきました。かつてエコーがそうであったように…

相手にされない哀しさ。ナルキッソスが今まで振ってきた、数えきれないほどの女が経験したのと同じくるしみを味わうこととなりました。

復讐の手段としては素晴らしい。なお、手を下したのは復讐の女神ネメシスだったという伝承もあります。

ナルキッソスは、最後にはやせ細って餓死寸前となりました。それでもキスをしようとして水面に顔を近づけ、自分の死を悟ったのか、弱々しく「さようなら」とつぶやきました。ナルキッソスの衰弱した体は重力にしたがって水面の方へ倒れ、そのまま湖の底へ沈んでいきました。

エコーは「さようなら」と繰り返しました。

寂しげに言ったか、それとも「ざまあみろ」と思ったか。解釈は分かれるでしょう。

ナルキッソスがいた場所には水仙の花が咲きました。英語ではナルシッサス。「ナルシズム」「ナルシスト」の起源はナルキッソスの神話です。

ナルシズムという言葉を考えたのは、精神分析で有名なフロイトです。ちなみに、オイディプス王の神話にちなんで「エディプス・コンプレックス」という概念を考えたのもフロイトです。19世紀のことで、人類の歴史上では意外と最近なのですが、ナルシズムは太古の昔から存在したことでしょう。そしてナルシズムが行き着く先も、昔と今でそれほど変わらないかもしれません。

シシュポス

(シシュポス 1)

シシュポスは非常に賢い男でした。

ニュアンスとしては「ずる賢い」という言葉の方がぴったりかもしれません。

シシュポスは、古代においてアテナイやスパルタに匹敵したコリントスという都市の創設者です。

同じく知恵者のオデュッセウスの父親だという伝承もあります。(オデュッセウスは、素晴らしい発想力によってトロイア戦争で活躍し、オデュッセウスの冒険「オデュッセイア」は数々の有名作品などの元ネタとなりました。)

ある日、河の神がシシュポスを訪ねてきました。

河の神:「お前は誘拐の常習犯らしいな。何人もの娘を連れ去った前科があるそうじゃないか。私の娘も誘拐したのか?」

シシュポス:「私ではない。しかし、誰の仕業かは知っている。」

河の神:「誰だ!教えろ!」

シシュポス:「いま私が都を建設している土地に、水の枯れない泉を湧き出させたら教えてやろう。」

河の神が木の棒で地面を叩くと、立派な泉が湧き出しました。

シシュポス:「ゼウスだ。今頃あそこの森で楽しんでいるんじゃないか。」

河の神は森へ向かいました。

この時、ゼウスは稲妻を置いて休憩していました。

ゼウスは、河の神が向かってきていることに気づき、丸い岩に変身してやり過ごしました。

その後、情報を垂れ流した罪でシシュポスを罰するよう冥界の王ハデスに頼みました。

ハデスは、タナトスという死神をシシュポスのところへ送りました。

タナトス:「ゼウスの浮気をちくった罪だ。お前をタルタロスへ連れていく。」

シシュポス:「断る。人間を冥界へ連れて行くのはヘルメスのはずだ。あなたに連れていかれる理由は無い。その、手に持っているのは何ですか?」

タナトス:「手錠だ。」

シシュポス:「手錠、ですか。初めて聞きました。どうやって使うんですか?」

タナトスが自分の手に手錠をかけたところで、シシュポスは手錠に鍵をかけました。

シシュポス:「なるほど、こうやって使うんですか。これは便利ですね。さすがは冥界の神様だ。」

感心したように言うと、シシュポスはタナトスを自宅の壁に鎖でつなぎました。

タナトスが間抜けとも思えますが、シシュポスのずる賢さを示すエピソードです。

シシュポスは、まずは河の神に情報を売ることで、泉という利益を得ました。

その結果タルタロスへ連れていかれそうになりますが、死神を騙して切り抜けます。この後も神々を欺きます。ギリシャ神話の登場人物の中では知名度は高くありませんが、おもしろいエピソードがいくつもあります。

死神を騙して利用する「デスノート」の主人公を彷彿させる、と思うのは私だけでしょうか?

(シシュポス 2

タナトスが冥界へ戻れなくなったことにより、人間が死ななくなりました。

戦をしても誰も死なない。首を斬られても死なない。ゾンビのように動き続けます。

戦の神アレスは、タナトスがいなくなったことに気付き、シシュポスのところへやってきました。

アレス:「タナトスをタルタロスへ返せ!さもないと、この場でお前をぶっ殺すぞ!」

シシュポス:「無理でしょう。タナトスが地上にいるんですから。」

シシュポスは鎖につないだタナトスをちらっとみて不敵な笑みを浮かべました。

アレス:「死ななくても、お前の首を切り落としてやることはできるぞ。人形みたいにバラバラにしてやってもいい。」

シシュポスは、しょうがないなあ、と不満を言いながら鎖を外し、タナトスといっしょにタルタロスまで行きました。

タルタロスにはペルセフォネがいました。ペルセフォネは冥界の女王ですが、ハデスとは無理矢理結婚させられていて、ハデスを愛していませんでした。生来純潔そうな顔立ちと表情。シシュポスは、ペルセフォネの人間性に付け入る隙を見出しました。

シシュポス:「私はまだ正式に葬式を挙げてもらっていないのです。葬式のために3日間だけ地上に戻してくれませんか?」

シシュポスは、タナトスに手錠をした時点で既にこうなることを予想して、決して葬式を挙げないよう妻に言っていました。

ペルセフォネ:「わかりました。葬式が終わったら戻ってきてくださいね。この世とあの世の間の河を渡るために、口に金貨を入れてもらうのを忘れずに。」

シシュポス:「金貨ですね。分かりました。」

素直に聴く振りをして、シシュポスは内心ほくそ笑みました。ちょろいもんだ。冥界の神々をだますことなど簡単だ…地上に戻ったシシュポスは、嘘ぴょーんと言わんばかりにペルセフォネとの約束を破り、今まで通りの生活を送っていました。

しかし結局はタルタロスへ強制的に連れ戻されてしまいます。

シシュポス:「やれやれ。あの河の神を利用してコリントスの都に泉を用意できたことが唯一の功績だ。」

シシュポスは、ゼウスの浮気をばらした罪、その後も立て続けに神々に逆らった罪に対して相応の罰を与えられました。

岩を坂の上まで転がしていき、頂上までいくと岩が坂を転がり落ち、また頂上まで転がす。これを永遠に続ける刑です。この岩は、ゼウスが河の神から身を隠す時に変身した岩にそっくりな形をしていました。

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