ゼウスはアルクメネの夫に化けてアルクメネと交わりました。
やがてアルクメネは双子を出産しました。一人はゼウスの子ヘラクレスで、もう一人は夫の子でした。
ゼウスの正妻ヘラは、猛烈な勢いで復讐を続けました。ヘラは結婚と妻の地位を守る女神でもあるため浮気には厳しく、「ヘラクレス」という名前には「ヘラの栄光」という意味がありました。
ヘラクレスが生まれて数日後、ヘラは双子の眠るゆりかごの中に2匹の毒蛇を出現させました。完全に殺すつもりでした。しかしギリシャ最強の英雄であるヘラクレスは、毒蛇をつかんで絞め殺し、返り討ちにしました。
アルクメネは、ヘラの迫害に対する恐怖で母乳が出なくなってしまいました。
そこで、ゼウスは、ヘラクレスを神々が暮らすオリュンポスの館まで連れていきました。
ゼウスは、ヘラを眠らせ、眠っている間にヘラクレスをヘラの胸まで持っていき、ヘラの母乳をヘラクレスに飲ませました。
しかしヘラクレスが母乳を吸う力が強すぎたので、ヘラは目を覚まし、ヘラクレスを思い切り投げ飛ばしました。ヘラクレスは床に叩きつけられました。
不倫相手の子どもに母乳を吸われる屈辱も凄まじかったことでしょう。
この時飛び散ったヘラの乳が、星座の「ミルキーウェイ」の起源となりました。日本では「天の川」と呼ばれます。夜空にかかる白い川のようなミルキーウェイあるいは天の川は、古代ギリシャ人の想像力によって、飛び散った白いミルクのイメージと重なったのです。
ついでですが、ミルクはギリシャ語で「ガラ」で、「銀河」を意味する「galaxy(ギャラクシー)」は、「ミルクのような」が語源です。
また、英雄を意味する「ヒーロー」や、ギリシャの公式名称「ヘレニックリパブリック」、ギリシャ人を意味する「ヘレネス」の語源も女神ヘラです。ヘラという女神の偉大さや影響範囲の広さ、そして「ヘラクレス」という名前にこめられた「ヘラの栄光」のニュアンスが伝わるでしょうか。
ヘラクレスはゼウスの浮気とヘラの復讐に翻弄されています。
ギリシャ神話の世界観は、「織姫と彦星が天の川をわたって1年に1回七夕の日だけ会える」などというゆるいおとぎ話とは真逆です。欲望と嫉妬がドロドロと渦巻く復讐劇です。
ともあれ、ヘラクレスは、女神ヘラの乳を吸ったことで、更なる強さを手に入れました。成人してギリシャ各地の怪物を倒す旅に出ますが、ここでもヘラに迫害されます。