①ギリシャ神話まとめ

Q.ギリシャ神話とは?

古代ギリシャ人が語った神話。現代まで語り継がれる。ギリシャの小学生は、ギリシャ神話の絵画やイラストを見ればキャラクター名がだいたい分かる。ギリシャだけではなく、西洋全般の文芸作品は、ギリシャ神話の影響が色濃い

Q.成立時期は?

3000年以上前にはギリシャ神話の原型があった。紀元前8世紀から紀元1世紀頃の間に現在の形となった。

Q.どんな内容?

ギリシャ神話の序盤は、天地創造と、ゼウスが王になるまでの神々の戦いの歴史。中盤以降は、ラブコメ愛憎劇復讐劇、人生の真理を語る寓話、科学に代わる自然現象の説明当時のギリシャ人の生活の擬人化やエピソード化など。

Q.おもしろいの?

「ピタゴラスの定理」や「アルキメデスの原理」があるように、古代ギリシャでは現代の科学や数学の基礎が作られた。

古代ギリシャ人は文学的な感性もすばらしく、古代ギリシャの文学も神話もレベルが高い。

紀元前5世紀頃、3大劇作家と呼ばれるアイスキュロス・ソフォクレス・エウリピデスが趣向をこらし、ギリシャ神話を題材とする数々の名作を生み出した。ギリシャ神話は古代ギリシャ人のエンターテイメントだった。ただ事実を羅列しただけでストーリー性が無い話もあるが、現代でも通用するおもしろい話が山ほどある。

Q.オリュンポス12神とは?

ギリシャの首都アテネの北400kmにある「オリュンポス山」の山頂には、オリュンポスの館があって、神々が暮らしている、と古代ギリシャ人は考えていた。神々の中でも特に有力な12神が「オリュンポス12神」。ゼウス、ポセイドン、アポロン、アテナ、アルテミスなどが有名。

1.ゼウス

英語名ジュピター ラテン語名ユピテル

天空、稲妻

祖父ウラノス、父クロノスの代から続く覇権争いに勝利し、ギリシャ神話の最高権力者となった。

数え切れないほどの浮気を繰り返し、神や英雄を誕生させた。アテナ、アポロン、アルテミス、ヘルメス、ペルセウスヘラクレス等もゼウスの子ども。ギリシャ神話のエピソードはゼウスの浮気で始まり妻ヘラの復讐で展開されることが多い。

木星は太陽系で最も大きいことからジュピターと名付けられた。木星の衛星には「イオ」「エウロペ」「レダ」「メティス」などゼウスの愛人の名前が付けられている。

2.ヘラ

英語名ジュノー ラテン語名ユノ

結婚、妻の地位

ゼウスの正妻。オリュンポスの女王。

ゼウスの浮気に激しく嫉妬し、様々な手段で復讐する。

最もヘラに迫害されたのはギリシャ最強の英雄ヘラクレス。「ヘラクレス」はギリシャ語で「ヘラの栄光」。

ヘラはギリシャ先住民が最高神として信仰する神だった。「ヘレニック・リパブリック(ギリシャの公式名称)」「ヘレン(ギリシャ人の先祖)」「ヒーロー(英雄)」は「ヘラ」に由来する。ヘラとゼウスの夫婦関係は、「ゼウスを最高神とする民族がギリシャに侵略してきて、ヘラを最高神とする先住民を支配したが、完全には制圧できなかった」という史実を反映している。

「ジューンブライド」の起源はヘラの英語名「ジュノー」。

3.アテナ

英語名ミナーヴァ ラテン語名ミネルヴァ

知恵、戦、技芸、機織り

ゼウスと知恵の女神メティスの娘。

鎧・槍・盾で武装し、胸にメデューサの魔除けを付けている。

英雄に助言を与えて冒険を成功に導く。

「アテナがギリシャにオリーブの木を与えた」という神話は、アテナの知性と偉大さを象徴している(オリーブはギリシャの乾燥した土地でも栽培でき、食用・灯油・香油・建築資材など用途が幅広く、輸出品としてギリシャの経済を支えた)。

処女神であり、パルテノン神殿はアテナを祭った(処女はギリシャ語でパルテノス)。

古来より神々の中でも特に信仰された。ギリシャ神話での登場回数も多い。

首都アテネはアテナを祭る都として建設され、1896年の第1回近代オリンピックと2004年の夏季オリンピックはアテネで開催された。

4.アポロン

英語名アポロ ラテン語名アポロ

光明、神託、弓矢、音楽、芸術、医術、疫病、農業…

アルテミスの双子の弟。兄とする伝承もある。

支配領域は多岐に渡る。ギリシャ国外の多数の神をアポロンに集約させたと考えられている。ギリシャに入ってくる前は死神のような側面もあった。その影響で性格は短気で残酷。

「オリュンポス一の美青年」「ギリシャの青年の理想像」とされ、アポロンの恋愛の話は多いが、いずれも悲劇的な結末を迎える。月桂樹の木になったダフネや、カサンドラの予言のエピソードが有名。

アポロンの月桂樹の冠は「永遠」を象徴している。マラソン大会の優勝者には月桂冠が贈られ、オリンピックのメダルのデザインには月桂樹が用いられる。

宇宙船「アポロ11号」の起源もアポロン。

5.アルテミス

英語名ダイアナ ラテン語名ディアナ

純潔、狩猟、弓矢、月、出産

アポロンの双子の姉。妹とする伝承もある。

森で狩りをしたり動物と戯れたりして暮らす。

アテナと同様に処女神で、男とは交わらない。ただし勇者オリオンと発展したことがある。オリオン座とサソリ座の話が有名。

人類初の月面着陸を達成した「アポロ計画」にちなんで、2024年までに人類初の女性宇宙飛行士を月面着陸させる計画「アルテミス計画」が実施中。

6.ヘルメス

英語名マーキュリー ラテン語名メルクリウス

商売、嘘、泥棒、詐欺、交渉、交通、牧畜

裏の世界の能力を兼ねる変わり種の神。

生まれたその日にアポロンの牛50頭を盗んだ。牛はゼウスの手でアポロンに返されたが、ヘルメスは自作した竪琴と引き換えに牛を取り返した。

オリュンポス・人間界・冥界を飛び回り、ゼウスの伝令や浮気の処理をしたり、旅人を導いたりする。水星は太陽系の惑星で最も速く動くため、マーキュリー(ヘルメスの英語名)と名付けられた。

ケリュケイオン(ギリシャ語で「伝令者の杖」)という杖で相手を眠らせ、泥棒に活用する。魔法使いのキャラクターが魔法の杖を持つ起源はヘルメスにある。

7.アフロディーテ

英語名ヴィーナス ラテン語名ウェヌス

美、性愛

ギリシャ神話の神々の中で一番の美女。

クロノスが海に投げ捨てたウラノスのいちもつからは、泡が吹き出し、アフロディーテが誕生。アフロディーテは泡に包まれエーゲ海を漂流した。「アフロディーテ」とは「泡から生まれた女」という意味。有名な「ミロのヴィーナス像」はエーゲ海の島で発掘された。イタリアンのサイゼリヤにもある絵画「ヴィーナスの誕生」はアフロディーテ。

純愛と言うより性愛を司る話が多い。

恋愛感情や性欲を吹き込むことで人間を操り、その様子を眺めて楽しんだり、気に入らない人間を破滅させたりする。

醜い夫ヘパイストスとは無理矢理結婚させられていて、野生的な魅力のある戦の神アレスと不倫している。

中には純愛の話もある。エロスとプシュケの物語はディズニーの「美女と野獣」の元になった。愛の神エロス(英語名キューピッド)はアフロディーテの息子。

8.ヘパイストス

英語名ヴァルカン ラテン語名ウルカヌス

技術、鍛冶、火、火山

アフロディーテの夫。

美男美女揃いのオリュンポスの神々の中で、唯一容姿が醜く、しかも足が曲がっている。この設定は、古代ギリシャにおいて鍛治屋の地位が低かったこと、鍛冶で発生する化学物質による中毒で手足が麻痺したことなどを反映している。

母ヘラは美意識が高く、生まれたばかりのヘパイストスを海に投げ捨てた。その後ヘパイストスは己の技術によってオリュンポス12神に成り上がり、ヘラや不倫する妻アフロディーテに復讐する。ベッドに細工してアフロディーテの浮気現場を押さえた話が有名で、絵画も多い。「オイディプス王」などで知られるギリシャの都の悲劇も、不倫されたヘパイストスの復讐の産物。

英語のボルケーノ(火山)はヘパイストスのラテン語名「ウルカヌス」に由来する。シチリア島などの火山島ではヘパイストスは崇拝された。

9.アレス

英語名マーズ ラテン語名マルス

戦、破滅

同じ戦の神でも、アテナは知恵があり正義のために戦ったり英雄に助言をしたりするのに対し、アレスは知恵が無く、人間に残酷な殺し合いをさせる。アテナとアレスが戦う場面が何回かあるが、アレスは全敗する。古代ギリシャ人がアテナを特に崇拝したため、アレスの地位は低め。

しかし容姿端麗でワイルドな魅力があり、アフロディーテの不倫相手となっている。この不倫が、神々も人間界も巻き込む数々の争いの原因となる。

火星が英語でマーズなのは、火星の赤が戦の火や血を想起させるためである。

軍事国家ローマの神話ではアレスの地位は高い。

ギリシャ神話では戦の神アレスの出番は少ないが、アレスがいなくても欲望・嫉妬・復讐により十分に争いが起きる。

10.デメテル

英語名セレス ラテン語名ケレス

農耕、穀物、食物

ギリシャ神話の時代には、現代のような温室や品種改良などの技術が無く、収穫高は天候次第だった。

豊作か凶作かは神の采配によるところが大きいと考えられ、デメテルは偉大な力を持つ女神として信仰された。

このような実態を反映して、穏やかだが怒ると恐い女性として描かれる。

愛娘ペルセフォネが冥界の王ハデスに誘拐された時は、世界中の作物が育たなくなる呪いをかけて報復し、全人類と神々を滅ぼしかけた。

「デメテル」とは「大地の女神」といった意味。

コーンフレークの「シリアル」はデメテルの英語名「セレス」に由来する。

11.ポセイドン

英語名ネプチューン ラテン語名ネプトゥヌス

海、河、泉、海難、地震

航海や天候予測の技術が現代ほど発展していなかったため、海難事故は多く、古代ギリシャ人の海に対する恐怖は大きかった。

これを反映し、ポセイドンは神々の中でゼウスに次ぐ力を持つ。そしてポセイドンの子どもは不気味な怪物が多い。メデューサを愛人としていたこともある。

嵐・洪水・地震などが発生した時は、ポセイドンの怒りと考えられた。

有名なオデュッセウスの冒険も、10年も漂流したのはポセイドンの呪いのためである。

ポセイドン自身を語ったエピソードは少なく、他の登場人物で海の話になるとここぞとばかりに出てくる。

ローマの観光名所「トレビの泉」のように、ルネサンス期以降の噴水にはポセイドンと息子トリトンの彫像が設置されることが増えた。

12.ヘスティア

英語名ヴェスタ ラテン語名ウェスタ

かまど、暖炉、家庭、家族

クロノスが吐き出した6人の子どもの長女。デメテル・ヘラ・ハデス・ポセイドン・ゼウスの姉。

嫉妬・復讐・愛憎がドロドロと渦巻くギリシャ神話において、ヘスティアはオリュンポスの館から出ることが無く、平和に暮らしている。出番はほとんど無い。

ゼウスもポセイドンもアポロンもヘスティアと交わろうとしたが断念し、ヘスティアは永遠に処女でいることを許された。

これは、古代ギリシャにおいて釜戸(かまど)が神聖で不可侵な領域であったことを反映している。古代ギリシャ人は祭壇や釜戸に火を灯し、火が燃え続ける限りヘスティアが家や都を守ってくれると考えた。

現代でも、オリンピックの聖火はギリシャのオリンピア遺跡のヘラ神殿跡で太陽光から採火し、開催期間中は聖火を灯し続ける。

「鬼滅の刃」の主人公を見た時には、出番は少なくてもギリシャにとって大切な竈門(かまど)の女神ヘスティアに祈りをささげてみましょう。

ディオニュソス

英語名バッカス ラテン語名バックス

酒、陶酔、演劇、カオス

ラテン語名「バッカス」が有名な酒の神。

ぶどう栽培とワイン醸造はディオニュソスが始めたとされる。

ゼウスやアポロン等の神々が、神と人間の違いを明確にしたり、世界のコスモス(秩序)を維持したりするのに対して、ディオニュソスは神と人間の違いを曖昧にしたり、世界にカオス(混沌)を広めたりする。

「神々の中で唯一人間の母を持つ」「人間の女に混じって踊り騒ぐ」「シレノス(半人半獣の生物)を連れている」等の特徴は、カオスの拡大を象徴している。

古代ギリシャ人は、「ディオニュソスの密儀」という祭りの中でギリシャ神話を語り、発展させた。首都アテネのパルテノン神殿の近くには「ディオニュソス劇場」というギリシャ最大規模の17,000人を収容する屋外劇場があり、ここでギリシャ神話の演劇が上演されていた。ディオニュソスの存在によって、ギリシャ神話は神一辺倒になることなく、バラエティに富む物語を展開した。

ディオニュソスの存在意義は大きく、オリュンポス12神に数えることもある。

ハデス

英語名プルート ラテン語名プルトー

冥界の王。ゼウスの兄。

常に地下の冥界にいるためオリュンポスには来ないが、オリュンポス12神と合わせて13神とすることもある。

冥界を舞台とするオルフェウスシシュポスの物語で登場する。

女性関係の話は少ないが、農耕の女神デメテルの娘ペルセフォネを誘拐して結婚したエピソードが有名。ペルセフォネは、1年の3分の1は冥界でハデスと暮らし、3分の2はオリュンポスで母デメテルと暮らすことになったが、ペルセフォネが冥界で暮らす期間は農耕の女神デメテルが嘆いて仕事を放棄するため農作物が育たなくなる。という物語で、古代ギリシャ人は季節周期の原理を説明した。

原子力のプルトニウムはハデスの別名「プルトン」に由来する。

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