第2話 アラクネの機織り

アテナは知恵の女神であると同時に、戦と勝利の女神であり、さらに技芸の女神でもあります。

技芸の中でも特に機織りが得意でした。

なぜ機織りかというと、古代ギリシャの都市では機織りは女性にとって重要な仕事だったからです。機織りにまつわる神話も自然と生まれました。

アテナの機織りにまつわるエピソードを一つ紹介します。

現在のトルコがある地域の都に、機織りが天下一品に上手いアラクネという少女がいました。

この日もアラクネは機織りをしていました。

アラクネの機織りがあまりにも人間離れして見事なので、人々は、「女神アテナから直々に機織りを教わったのではないか」と話していました。

しかしアラクネは自信満々に言いました。「アテナに教わった?そんな訳ないだろう。これは私自身の力だ。私は女神アテナと腕比べをしても勝つ自信がある。」

すると、老婆がやってきて、「そんな考えはおよしなさい。神には敬意を持った方がいい。」と言いました。しかしアラクネは態度を変えません。

老婆:「お嬢さん。本当にさっきの言葉を取り消すつもりは無いかね?」

アラクネ:「無いね。機織りにかけては私が一番だ。」

老婆:「本当にあなたが一番だと言い切れる?」

アラクネ:「もちろん。」

老婆:「神々は、人間には想像もできない力を持っているんだよ。」

アラクネ:「ふん。神なんてどうせオリュンポス山の頂上で一日中暇してるんでしょ。」

老婆:「神よりも上手い自信があるんだね?」

アラクネ:「絶対私の方が上手いね。この色使い。この構成。この写実性…アテナにできるかしら?」

老婆:「そうかい。では仕方がない。後悔するでないぞ…人間め!」

老婆はみるみると若返り、すらっと手足が伸びて、アテナは美しい女神の姿に戻りました。

アテナは、女神に対するアラクネの不遜な態度を見逃さず、老婆に化けてオリュンポスの館から飛んできたのです。

アテナ:「思い上がるなよ小娘!この私、知恵と勝利と技芸の女神アテナが、望み通り腕比べをしてやろう!」

いざ女神が目の前に現れるとアラクネは怖気づきましたが、それでも勝負を受けて立ちました。

アテナが織った絵柄は、オリュンポスの神々の栄光をたたえる場面でした。

これに対抗してアラクネが織った絵柄は、神々の醜態や、男の神が動物に化けて人間の女を誘拐する場面でした。

あくまで反抗的な態度にアテナは激怒しました。

その上、機織りの技術自体は素晴らしく、アテナと比べてもいい勝負でした。これがまたアテナは気に入りませんでした。

アテナは逆上して、アラクネが織った布を引き裂き、近くにあった木片でアラクネの頭を叩きました。

アラクネは、抗議するようにその場で首を吊って自殺を図りました。

するとアテナは、命だけは助けてやることにしましたが、呪いをかけてアラクネをクモに変えました。

そのクモは、素晴らしい絵柄の巣を作りました。

アテナは思わず口走りました。

「人間め。確かに見事な腕前だ。」

こうして、クモは幾何学的な模様の巣を作ったり、天井から吊った糸に垂れ下がったりするようになりました。「アラクネ」はギリシャ語でクモのことです。 

ギリシャ神話には、クモの巣のように、特徴的な自然現象の起源を説明するエピソードがあります。

毎朝日が昇って夕日が沈む理由や、一年に四季がある理由も、自転・公転という科学的な知見が無かったため、物語を付けることで説明しました。

最後に余談ですが、「アリアドス」というクモのポケモンがいます。こちらはおそらく「アリアドネの糸」に由来すると考えられます。

第3話 ギリシャのオリーブ

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