ゼウスの愛人イオはヘラの復讐の標的となりました。牛の姿でアブに刺されながら、命からがらギリシャからエジプトまで逃走しました。
その間ゼウスはひたすら謝り続け、ようやくヘラの許しを得ました。
それでもゼウスの浮気癖は変わりません。
ある日、ゼウスは人間界を眺めていて、海辺に美女を発見しました。
地中海の東側のフェニキアの湾岸、今のレバノンの辺りです。
彼女はフェニキアの王の娘で、名前はエウロペと言いました。
エウロペは花を摘んで遊んでいました。
砂浜の方を眺めると、真っ白な美しい雄牛がたたずんでいました。
エウロペは牛に挨拶をしてみました。牛もこちらを見ています。
エウロペがおそるおそる歩み寄って花を近づけてみると、雄牛はゆっくりと頭を動かしてエウロペの手にキスをしました。花をくれたお礼を言っているように見えました。
今度は、摘んだ花で作った花輪を雄牛の角にかけてみました。喜んでいるようです。
エウロペの警戒心は徐々に無くなっていきました。
牛はしゃがんで背中をこちらへ向けてきました。
エウロペ:「乗せてくれるの?」
乗ってみると牛はゆっくりと歩き出しました。乗馬のようでおもしろく、エウロペは楽しんでいました。
牛は砂浜を歩きました。エウロペに悟られないように、少しずつ海の方へ近づいていきました。そしてエウロペが逃げ出さないことを確認すると、海に向かって全速力で走り始めました。
エウロペは振り落とされないよう必死に牛にしがみつきました。ゼウスが化けた雄牛は海を泳ぎ続け、どんどん陸地から離れていきます。
とても神とは思えませんが、これがギリシャ神話の神です。この程度の誘拐は日常茶飯事です。
ゼウスの手口はだいたい決まっていて、ターゲットの好きな動物などに変身して警戒心を解いて近づきます。
エウロペを乗せたゼウスは、フェニキアの海岸を出発し、地中海を西へ爆走し、エーゲ海のクレタ島に上陸しました。ここでヘラの監視を避けて、ゼウスはエウロペと交わり三昧の生活を楽しみました。
エウロペは3人の子どもを産み、このうちの一人「ミノス」がクレタ島の王となります。
このクレタ島を起点として、エーゲ海を舞台とした話や、アテナイ(現在の首都アテネ)などのギリシャ本土との戦いの話が展開されます。
現実の人類の歴史においても、クレタ島はエーゲ海最大の島で、クレタ島で文明が発展しました。フェニキアの文明がクレタ島に伝わり、クレタ文明(ミノスにちなんで「ミノス文明」「ミノア文明」とも言う)が発展し、ギリシャ本土に伝わりました。そしてギリシャの神話や学問はヨーロッパの文化の基礎となりました。
ギリシャ文字、ヨーロッパ諸国のアルファベット、ロシアのキリル文字は、フェニキア文字から作られました。
王女エウロペ(Europe)はヨーロッパの起源となりました。