第6話 王様の耳はロバの耳 イソップ寓話編

ミダスという強欲な王様は、「手で触れた物を黄金に変える力が欲しい」と酒の神ディオニュソスに願いました。望み通りの力が手に入り、確かに触れた物を次から次へと黄金に変えることができましたが、食事や水も黄金になってしまい、ミダスに手で触れた娘も黄金の像になってしまいました。

ミダス王の耳は、愚かな動物の象徴であったロバの耳になりました。「王様の耳はロバの耳」です。

ミダス王のロバの耳の神話には、こんな話もあります。

ある日、音楽の神「アポロン」と、ヘルメスの息子「パン」が、楽器の演奏の勝負をしました。

審査員はみんなアポロンを選びましたが、ミダスだけがパンを選びました。

短気なアポロンは、「私の勝ちだ!お前の耳がおかしいのだ!」と激怒し、ミダスの耳をロバの耳に変えました。

「アポロとミダス」ノエル・アレ 1750年頃
左下で頭を抱えているのがミダス、右から指さしているのがアポロン

この日から、ミダスは耳を隠すために帽子をかぶるようになり、誰にも知られないように注意深く行動していました。しかし、髪を切る時は帽子を取らねばならず、床屋だけはミダスの耳の秘密を知っていました。
ミダス:「誰にも言うんじゃないぞ。誰かに喋ったらお前は死刑だ。」
しかし床屋は秘密を自分の中にためこんでおくことができなくなりました。そして、川原へ行き、地面に穴を掘って、穴に向かって大きな声で「王様の耳はロバの耳!」と叫びました。
こんなことで解決するのか疑問ですが、「人間は秘密をばらしたくなってしまう生き物である。ためこんでいると心理的な負担になる。」という習性がよく表されています。
この後どうなったかは有名な話です。アシの葉が「王様の耳はロバの耳!王様の耳はロバの耳!」と言い出して、ミダスの耳の秘密は町中に知られてしまいました。ミダスは床屋を処刑した後、羞恥心のあまり自殺しました。

この話はイソップ寓話にもなっています。イソップは紀元前6~7世紀のギリシャ人です。

情報は意外なところから漏れるということ、そしてその被害は甚大であるということが示唆されています。

西暦2022年の現代においても、人間の習性も情報の本質もギリシャ神話の時代と変わっていない部分があります。噂話は広がるし、情報漏洩を防ぐにはコストがかかります。

「まさかアシの葉がばらすとは…」

「まさかSNSから漏洩するとは…」

人間はミダス王の時代から変わっていないようです。

第7話 シシュポスは死神を欺く

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