第3話 ピュグマリオンの彫像

「ピュグマリオン効果」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

心理学の実験です。

同じ学力の子どもを集めて2組のクラスに分け、片方のクラスの担当教師には、「普通のクラスです」と伝え、もう片方のクラスの担当教師には「優秀な子どもを集めたクラスです」と伝えます。

しばらく教えてみると、「優秀」と伝えたクラスの方が伸びると言います。

人間は期待されて取り組むと実際にできるようになり、できないと思われていると本当にできなくなる。思い込みの力が働いている、という説です。

この手の実験は計測方法によって結果が変わってしまうこともあるでしょうが、人生においては時には思い込みが力を発揮することもあるでしょう。

「ピュグマリオン」とは、ギリシャ神話に出てくる王様の名前です。この王の話は、思い込みの力をテーマとしています。

ピュグマリオンはキプロス島の王でした。

キプロス島は、エーゲ海をはさんでギリシャの反対側にあります。泡に包まれたアフロディーテがエーゲ海を漂流して辿り着いたとされる、アフロディーテ誕生の島です。古来よりアフロディーテ信仰が盛んでした。

島の王ピュグマリオンは彫刻家でもあり、理想の女性としてアフロディーテをイメージして象牙で彫像を掘りました。

彫像にはガラテアという名前を付けました。 

ガラテアは生身の人間ではありえないほど美しく、ピュグマリオンは毎日ガラテアのことを思って暮らしました。ガラテアを優しくなでたり、抱いたり、この時点で既に頭がおかしくなっていますが、キスをしたり、歪んだ愛は更にエスカレートします。

裸では恥ずかしいだろうと思って服を着せました。アクセサリーもつけました。プレゼントも贈りました。添い寝もしました。やがてこの彫像を人間の女と同じように愛するようになりました。

アフロディーテの祭りの日に、ピュグマリオンは愛の女神アフロディーテに「ガラテアのような女を妻にください」と願いました。

その日もピュグマリオンは家に帰ってから彫像を抱きました。

しかし、抱いてみると、象牙でできているはずの体が、まるで生身の女の体のように温かく柔らかいことに驚きました。

顔を見てみると、人間の女がピュグマリオンにほほえんでいました。

アフロディーテはピュグマリオンの願いを聞き入れたのです。

彫像ガラテアは人間の女になりました。「ガラテア」とは「乳白色の女」という意味です。

↑ジャン=バプティスト・ルニョー「彫刻の起源」1786年
ピュグマリオンは彫刻に名前を付け人間のように愛した
↑Louis Gauffier「Pygmalion and Galatea」1797年
アフロディーテは彫像に命を吹き込んだ
ジャン=レオン・ジェローム「ピグマリオンとガラテア」1890年
ピュグマリオンの神話で最も有名な絵画。足元はまだ彫刻のまま、後ろでキューピッドが矢を放つ。

第4話 ピュグマリオン一族の歪んだ愛

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