ギリシャ最強の英雄ヘラクレスは、ゼウスと浮気相手の人間の間に生まれました。生まれながらにしてゼウスの正妻ヘラに迫害される運命を背負っていました。
ゆりかごの中にヘラが送った毒蛇が現れた時は、素手で絞め殺しました。
ゼウスが赤ん坊のヘラクレスを持って眠っているヘラの母乳を飲ませた時も、ヘラに投げ飛ばされ床に叩きつけられるという難局を乗り越えて強く育ちました。
成人したヘラクレスは、妻メガラと子どもたちといっしょに幸せに暮らしていました。
しかしヘラはヘラクレスに呪いをかけて発狂させ、ヘラクレスは子どもたちを自分の手で皆殺しにしてしまいました。
罪滅ぼしのためにどうすればよいか、神託の神アポロンに尋ねると、答えは「ミュケーネ(古代ギリシャの都市)の王に仕え、王の出す12の難行を成し遂げよ」というものでした。このミュケーネの王はヘラが用意した差し金で、ヘラは12の難行を利用してヘラクレスを攻撃してきます。
第1の難行は「ネメアの森のライオンを退治する」でした。
今のスペインからギリシャ北東部辺りには、西暦100年頃まではライオンが生息していたことが確認されています。ネメアもギリシャ北東部にあり、ライオンがいたようです。ヘラクレスはネメアのライオンを倒し、これ以降ライオンの毛皮を被って行動しました。星座の獅子座はこの神話のネメアのライオンです。
第2の難行は「レルネの沼のヒュドラを退治する」でした。
ヒュドラは猛毒の毒蛇で、9個の頭があり、一つ切り落としてもすぐに新しい頭が生えてきました。厄介でしたがヘラクレスはなんとかヒュドラを倒しました。ヘラが加勢して巨大なカニを出現させましたが、ヘラクレスはカニも踏みつぶして倒しました。ヒュドラの血に矢を漬けると毒矢になり、これ以降ヘラクレスは毒矢を使いました。ヒュドラは星座のうみへび座に、カニはかに座になりました。
現実のレルネは湿地帯で、干拓がうまくいかなかったようです。ネメアのライオンもそうですが、当時のギリシャ人にとって厄介だった自然環境が神話の中で怪物となって現れています。
第3以降の難行でも、ヘラクレスはギリシャ各地の怪物と戦いました。第11の難行を終えた時、ミュケーネ王はヘラクレスがここまでできるとは思っておらず、到底不可能と思える「冥界に行って地獄の番犬ケルベロスを連れてくる」という難題を出しました。
冥界へ行くためには死ななければならず、さすがのヘラクレスも諦めかけました。しかし、女神アテナが現れ、ギリシャ南部の岬の洞窟から冥界に行けると教えてくれました。この洞窟はとても不気味で、本当に冥界に続いていそうな雰囲気でした。ケルベロスを連れてくると、ミュケーネ王は恐怖で逃げ出して降参しました。ヘラクレスは12の難行を見事に成し遂げました。
第3~第11は省略し、他にもヘラクレスの武勇伝は無数に残されていますが、この辺で切り上げます。基本的には、ギリシャ各地の人々が自分の地域を神話として語り、地域の事情が神話のストーリーに反映されていると考えられます。