第2話 魔法の杖の始まり

ゼウスは、嘘や泥棒を司る神が必要だと考え、人間界の山奥の小屋に泥棒のように忍び込んで女神と交わりました。

こうして生まれた嘘と泥棒の神ヘルメスは、生まれたその日にアポロンの牛50匹を盗み、予言の神であるアポロンは占いによって犯人をヘルメスと特定しました。

激昂するアポロンと白を切るヘルメスがゼウスのところへやってきました。

ヘルメス:「私は嘘は言っていません。牛を盗んだ覚えはありませんし、嘘のつき方も知りません。」

ゼウスはヘルメスのずる賢そうな顔を見て満足しました。

嘘。泥棒。悪知恵。不誠実な心。神々が必要としていた力でした。

満足したゼウスは、牛をアポロンに返すように言いました。

ヘルメスは牛を返し、アポロンは唖然としました。

しかし短気なアポロンはまたすぐに怒り出します。

激昂するアポロンをなだめるために、ヘルメスは竪琴を弾きました。この竪琴は、ヘルメスが亀の甲羅に弦を張って作ったものでした。

竪琴の音色が素晴らしかったので、アポロンの行動に変化が生じます。

アポロン:「素晴らしい音色だ。この私に相応しい。その竪琴をよこせ。」

ヘルメス:「やだよ。」

アポロン:「よこせ!」

ヘルメス:「どうしてもって言うならあげないこともないけど、ついさっきまで散々キレて脅してきたからなあ…これすごく良い竪琴だし、タダでっていう訳にはいかないな。」

アポロン:「この野郎、何が望みだ!」

ヘルメス:「牛。あそこの牛全部。」

ヘルメスは、アポロンに竪琴をあげる見返りとして、アポロンの牛を全て手に入れることができました。たった今盗みがバレて持ち主に返したところなのに、相手が欲する価値の創出と交渉によって取り返してしまいました。

ギリシャ神話では、この時のヘルメスの行動が「取引」というものの始まりだと考えられました。

この取引によって、ヘルメスは、商売・嘘・泥棒に加えて、牧畜の神ともなりました。

一方、アポロンは音楽の神となりました。アポロンは、絵画やイラストなどではよく竪琴を持っています。

◆魔法の杖

アポロンは、ヘルメスがまたアポロンの所有物を盗むのではないかと警戒していました。

しかしヘルメスが冥界のステュクスの川にかけて「もうアポロンの物は盗まない」と誓うと安心し、ヘルメスを友人として迎えました。そして魔法の杖を贈りました。

ヘルメスは2匹の蛇が巻き付いたデザインの魔法の杖を持っていますが、元々はアポロンからもらった物でした。

この魔法の杖を使うと相手を眠らせることができたので、泥棒をする時に重宝しました。「ハリー・ポッター」などの現在市場に出回っている魔法使いのキャラクターが魔法の杖を使う起源は、このヘルメスの魔法の杖にあります。魔法使いが帽子を被るのもヘルメスが起源です。

また、ヘルメスの魔法の杖には「ケリュケイオン」という名前がついています。ギリシャ語で「伝令者の杖」といった意味です。オリュンポス(神々の世界)・人間界・冥界を飛び回って、伝令としてゼウスの意向を伝えたり、ゼウスの浮気の後始末をしたりするのもヘルメスの任務でした。

水星は英語でマーキュリー(ヘルメスのラテン語名は「メルクリウス」、英語名は「マーキュリー」)ですが、これは水星が太陽系の惑星の中で最も速く動くからです。

水銀も英語でマーキュリーです。水銀は金属ですが常温でも液状で、プレートに垂らすと思いのほか速く動きます。「quicksilver(素早い銀)」という表現もあります。

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