第1話 ペルセフォネの誘拐

デメテルという農耕の女神がいました。

ギリシャ神話の時代には、デメテルの気分が良いと豊作になり、反対にデメテルに何かあると凶作になると信じられていて、古代ギリシャ人はデメテルに祈りをささげていました。

デメテルはペルセフォネという娘を溺愛していました。

その日、ペルセフォネは野原で妖精たちとたわむれながら無邪気に花を摘んでいました。

ペルセフォネはきれいな水仙の花を見つけ、水仙の方へ歩いていき、摘もうとしてしゃがみました。

すると突然大地が割けて、冥界の王ハデスが現れ、タルタロスの怪物が引く馬車にペルセフォネを乗せて地下へ連れ去っていきました。

この程度の誘拐は、ギリシャ神話の世界では普通です。日常茶飯事です。

ペルセフォネは助けを求めて、母デメテルを呼びました。

オリュンポスの館にいたデメテルは娘の異変を感じました。地上に降りていき、9日間不眠不休でペルセフォネを探しましたがどこにもいません。10日目に、地上の出来事を全て観察できる太陽の神ヘリオスを問い詰め、ハデスが誘拐したという証言を得ました。

デメテルはハデスとゼウスの姉でした。ゼウスのたくらみで水仙の花を使っておびき寄せ、ハデスが強引に連れ去ったのだと想像がつきました。

「あのバカ兄弟どもめ!報復してやる!」

デメテルは激怒し、地球上のあらゆる農作物も木の実も育たなくなる呪いをかけました。

神々は空腹で困り果てました。

ゼウスは農作物を育ててくれるようデメテルに頼みましたが、デメテルは聞く耳を持ちません。

ゼウスが贈り物をしてなだめようとしても効果がありません。ペルセフォネを返すまでは何もしてやらないと言います。

さすがに空腹に耐えきれなくなったゼウスは、ペルセフォネを返すようハデスに依頼しました。

ハデスはペルセフォネを地上に返すことを決めました。

ハデス:「無理に連れてきてわるかった。お詫びにこのザクロの実をあげよう。」

そう言って、ペルセフォネに、冥界のザクロの実を4粒食べさせました。

やっとのことでデメテルは最愛の娘ペルセフォネと再会しました。しかし、冥界での生活ぶりを聞いているうちに、デメテルの表情が曇ってきました。

デメテル:「何ですって?」

ペルセフォネ:「ザクロの実を4粒食べました。」

冥界の食べ物を食べた者は冥界から出られなくなるという神々の掟があったのです。冥界の王らしい、忍び寄る影のような一手でした。ハデスは、デメテルの要求を聞くふりをして、あくまで娘を奪ってやろうと考えていたのです。

憎きハデス。デメテルの怒りは最高潮に達しました。こうなったら、ハデスもゼウスも他の神々も、このまま全員飢え死にさせてやろうと考えました。

ここでゼウスが仲裁に入りました。

「掟には逆らえない。しかし、このままでは全員飢え死にしてしまう。そこでこうしよう。ペルセフォネは、1年のうち3分の1だけはハデスのところで暮らす。残りの3分の2は地上で暮らす。」

こうして、1年の12ヶ月のうち、4ヶ月間だけペルセフォネは冥界で暮らすこととなりました。

ペルセフォネが不在となる期間は、デメテルが嘆いて任務を放棄するため、毎年冬は農作物が育たなくなりました。

このようにしてギリシャ神話は季節周期の原理を説明します。地球が太陽の周りを公転するという科学的知見が無かった時代に、ストーリーを与えることで自然現象を説明したのです。

毎朝東から太陽が昇って西に沈む理由や、クモが幾何学的な図形の巣を作る理由もストーリーで説明しました。

第2話 水仙の花には毒がある

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