第2話 運命の牛肉

人類の創造主とされる神プロメテウスは、文字・数・火・牧畜・航海など様々な知恵を人間に与えました。

プロメテウスが与えた知恵によって、人間が文明を発展させると、神々への敬意は薄れていきました。

ゼウスは、思い上がった人間を罰し、人間と神の違いを思い知らせようと考えました。

すると、プロメテウスは、自分がやると申し出て、2つの塊を用意し、「ゼウスが選んだ方を神の取り分とし、選ばなかった方を人間の取り分とする。」と言いました。

一方の塊は、牛の肉を牛の胃袋で包んであります。いかにもまずそうに見えますが、実はおいしくて栄養価の高い肉が入っています。

もう一方の塊は、牛の骨を牛の脂肪で包んであります。一見おいしそうに見えますが、実は食べられない骨が入っています。

牛肉は古代ギリシャ人の主要な食糧でした。プロメテウスは、ゼウスをだまして牛の骨を選ばせ、牛肉を人間に与えようとしたのです。

しかし、ゼウスはこの罠を見抜いていました。

そして、だまされたふりをして、わざと脂肪に包まれた牛の骨を選びました。

この選択にはどんな意味があるのでしょうか?

牛の骨は何の役にも立たないと思いがちですが、時間が経っても腐らずに残るという特徴があります。

これに対し、牛の肉は、食べられますが、すぐに腐って朽ち果ててしまいます。

そして、「取り分」はギリシャ語で「モイラ」と言い、「モイラ」には「運命」という意味もあります。(運命の女神は「モイライ」です。)

したがって、「ゼウスが牛の骨を選んだ瞬間、神は永遠に生きるが人間はいずれ死ぬというそれぞれの運命が定まってしまった。」というストーリーが出来上がります。

ここまでの牛の肉がどうとか骨がどうとかいう話には、「神とは違う人間の儚い運命が定まる過程」が示されていたのです。

古代ギリシャ人が神に祈る時は、祭壇の前で牛の骨に火を付けて煙を昇らせるという儀式で神を呼びました。この儀式の度に、人間は神との違いを思い知らされることとなりました。

「プロメテウス」の「メテ」はギリシャ語で「知恵」を意味しますが、ゼウスもまた「知恵の女神メティス」を飲み込んでいて、体内のメティスがゼウスに知恵を授けていたのです。ゼウスの方が一枚上手だった、というオチです。

ゼウスは、自分をだまそうとしたことや、人間に味方したことに怒り、プロメテウスへの制裁を始めます。

第3話 火を盗むプロメテウス

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