第5話 王様の耳はロバの耳 黄金の呪い編

ミダスという王様の館には立派な庭園がありました。ミダスはこの庭園にシレノスが出没するという噂を聞きました。
シレノスとは、上半身が人間で下半身が山羊の奇妙な生き物で、すぐれた知恵や情報を持っているという評判でした。
ミダスは、シレノスを捕まえていろいろ聞き出してみることにしました。そして庭園の湖に酒を混ぜました。
これが上手く決まり、シレノスは何日も続けて庭園に酒を飲みにきました。シレノスは酒に酔って気持ちよくなって、ミダス王にいろいろな話をしました。

ある日、シレノスの主である酒の神ディオニュソスが来ました。

ディオニュソスは、他の神々が作った秩序を破壊します。神と人間の境界を曖昧にしたり、人間の世界と野生動物の世界の境界を曖昧にしたりします。半人半獣のシレノスの存在は、ディオニュソスの行動を象徴的に表現しています。

ディオニュソス:「人間よ。シレノスが世話になった。礼を言う。何か欲しい物はあるか?」

ミダスは強欲でした。

ミダス:「手で触れた物を黄金に変える力が欲しい。」

ディオニュソス:「ふっ、人間はそんな物を欲しがるのか。いいだろう。望み通りの力をくれてやろう・・・」

ディオニュソスは不敵な笑みを浮かべて、望み通りの力をミダスに与えました。

ミダスは神からもらった力を試してみました。近くの小石を拾うと、小石は瞬く間に光り輝く金塊に変わりました。

ミダス:「本当に黄金になった!この金塊でワインが何杯飲めるだろう?これで私は億万長者だ!」

ミダスは歓喜しました。

しかし、これでハッピーエンドなどというさわやかさは、ギリシャ神話の神々にはありません。

食事の時間になり、ミダスが席に着きスプーンを手に取ると、スプーンは黄金に変わりました。パンを手でつかむと、パンまでもが黄金になりました。

ミダスは焦りました。のどが渇き、水の入ったグラスを手に取ると、グラスも黄金になり、水も口についた瞬間に黄金になってしまいました。

これではいくら黄金があっても生きられません。

さらには、最愛の娘までもがミダス王に触れて黄金の像になってしまいました。

「ミダス王とその娘」 Walter Crane, 1845-1915
Arthur Rackham 1922年

数日後、ミダスは飢えと渇きで憔悴しながらディオニュソスに助けを求めました。

ディオニュソスは「パクトロス河で手を洗えば元に戻る」と言い、ミダスがその通りにすると、確かに、触った物を黄金に変える力は無くなりました。

これ以降、パクトロス河では砂金が産出されるようになったと言います。

しかし、ミダス王の耳は、愚かな動物の象徴であるロバの耳になってしまいました。

この寓話はいろいろなテーマを示唆しています。複数の物事の整合性を考えなかったり、想像力が足りなかったり、金だけでなんとかなると考えたり・・・昔からこういう過ちを犯す人はいたんですね。

第6話 王様の耳はロバの耳 イソップ寓話編

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