ゼウスが河の神の娘を誘拐して楽しんでいると、河の神が飛んできました。シシュポスがばらしたのです。
ゼウスは丸い岩に変身して隠れ、死神タナトスをシシュポスの家へ向かわせました。
しかし、タナトスはシシュポスの仕掛けた罠にはまり、シシュポスの家の庭の木に鎖でつながれ、冥界へ帰れなくなりました。
タナトスが冥界からいなくなったことにより、人間が死ななくなりました。
戦をしても誰も死なない。首を斬られても死なない。首無しのゾンビのように動き続けます。
この状況がおもしろくなかったのは、戦の神アレスでした。アレスの趣味は人間が殺し合う様子を見物することです。アレスはタナトスが冥界からいなくなったことに気付き、シシュポスの家へ行きました。
アレス:「タナトスをタルタロス(冥界)へ返せ!さもないと、この場でお前をぶっ殺すぞ!」
シシュポス:「ぶっ殺すのは無理でしょう。タナトスが地上にいるんですから。あれ?私の言ってること変ですかねえ?」
シシュポスは鎖につないだタナトスをちらっとみて不敵な笑みを浮かべました。
アレス:「死ななくても、お前の首を切り落としてやることはできるぞ。人形みたいにバラバラにしてやってもいい。」
シシュポスは、やむを得ずタナトスの鎖を外し、不満を言いながらタナトスに連れられてタルタロスへ行きました。
タルタロスには冥界の王ハデスの妻ペルセフォネがいました。ペルセフォネは冥界の女王ですが、ハデスとは無理矢理結婚させられていて、ハデスを愛していませんでした。生来純潔そうな顔立ちと表情。シシュポスは、ペルセフォネの人間性に付け入る隙を見出しました。
シシュポス:「私はまだ正式に葬儀を挙げてもらっていないのです。葬儀のために3日間だけ地上に戻してくれませんか?」
シシュポスは、タナトスに手錠をした時点で既にこうなることを予想して、決して葬儀を挙げないよう妻に言っていました。
ペルセフォネ:「わかりました。葬儀が終わったら戻ってきてくださいね。この世とあの世の間の河を渡るために、口に金貨を入れてもらうのを忘れずに。」
シシュポス:「金貨ですね。分かりました。」
素直に聴く振りをして、シシュポスは内心ほくそ笑みました。ちょろいもんだ。冥界の神々をだますことなど簡単だ…地上に戻ったシシュポスは、嘘ぴょーんと言わんばかりにペルセフォネとの約束を破り、今まで通りの生活を送りました。
やがて老人になり寿命を迎えたシシュポスは、冥界に来て言いました。
「これはこれは、冥界の神々の皆様。お久しぶりです。実に数十年ぶりですね。お変わりありませんか?」
シシュポスは、ゼウスの浮気をばらした罪、その後も立て続けに神々に逆らった罪に対して、相応の罰を与えられました。
岩を坂の上まで転がしていき、頂上までいくと岩が坂を転がり落ち、また頂上まで転がす。これを永遠に続ける刑です。この岩は、ゼウスが河の神から隠れる時に変身した岩にそっくりな形をしていました。