ゼウスの浮気はイオとセメレだけではありません。数え切れないほどの浮気をしました。ギリシャ神話の大部分はゼウスの浮気とヘラの嫉妬と言ってもよいほどです。
なぜゼウスは浮気を繰り返すのでしょうか。
ゼウスを擁護するわけではありませんが、これは神話の形成過程を知ると理解できます。
古代の人たちは、自分たちの民族に箔を付けるために、「〇〇の子孫」を自称することがよくありました。
古代ローマ人は、「自分たちは神話上の人物ロムルスの子孫である」と考えました。
都の創始者の子孫であるとか、宗教の創始者の子孫であると主張する集団もいます。一種のブランディングです。
ギリシャ神話が形成された頃のギリシャでも、いろいろな地方で、いろいろな民族が、ゼウスの子孫を名乗りました。
そして「ゼウスが人間の女と交わって創始者が生まれた」という話がいくつも発生し一つの神話に収束した結果、「ゼウスが何人もの人間の女と交わった」というストーリーができあがったのです。
また、ゼウスとヘラの力関係も、古代ギリシャ人の生活状況を反映しています。
今のギリシャがある地域には、太古の昔から、ヘラを最高神として信仰する先住民が住んでいました。ギリシャ神話に登場する現在の人類の祖先となる人物の名前は「ヘレン」ですが、これが「ヘラ」に似た音声であることからも類推できます。
ヘラを最高神として信仰する先住民のところへ、何回かに渡って、ゼウスを最高神とする民族が侵略してきました。後から来た方の民族は主権を取りましたが、先住民を完全に支配することはできませんでした。
こうして、「ゼウスはヘラより優位だが、ヘラを完全には支配できない」という条件の下に、ゼウスを最高神とする神話が、ヘラを最高神とする神話の中に混ざっていき、今の形のギリシャ神話が作られました。
ゼウスが浮気をする度に、ヘラは復讐をします。
ヘラはゼウスには逆らわず、浮気相手を攻撃します。
一方、ゼウスはヘラを完全に抑え込むことができていません。ヘラはいろいろ動いてゼウス側の勢力にダメージを与えます。
ゼウスはヘラとの離婚も考えません。神々が繁栄するためにはヘラの力が必要です。
もしも、先住民が完全に支配されていたら、ギリシャ神話のストーリーもゼウスが絶対的に優位に立っていたでしょう。ヘラは嫉妬も復讐もせず、何も話が発展しない、一辺倒な脚本になっていたかもしれません。
ユダヤ教やキリスト教などの神話は、唯一神が一方的に教えを述べる感じです。 ギリシャ神話では、ゼウスが最高権力者ですが、完全に抑え込めない妻ヘラ、反逆者プロメテウス、秩序を破壊するディオニュソスなどの存在によって、起伏に富んだストーリーが形成されました。